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[魂の殺人:狙われる子供の性] - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ
2005年05月21日 (土) | 編集 |
[魂の殺人:狙われる子供の性] - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ

 毎日新聞が連載している、児童に対する性的虐待、犯行に関する記事です。読んでみて下さい。(リンク切れになった際を考え、各記事全文を“続きを読む”以降に転載します。)
 ※下線部、太字、色付きの箇所は私が強調したものです。

魂の殺人:狙われる子供の性/1 心の傷、親も聞けず プライバシー、防犯の壁 (4/12) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ

魂の殺人:狙われる子供の性/2 人形の部屋 「女性には好かれぬ」 (5/13) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ

魂の殺人:狙われる子供の性/3 身内の罪 心重く、見えぬ被害 (5/14) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ

魂の殺人:狙われる子供の性/4 教室の被害 転任先、把握できず (5/15) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ

魂の殺人:狙われる子供の性/5 少年も標的 警戒心の薄さ突き (5/17) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ NEW!

魂の殺人:狙われる子供の性/6 後遺症 「記憶は消せない」 (5/18) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ NEW!

魂の殺人:狙われる子供の性/7 加害児童 更生へ支援、乏しく (5/19) - MSN-Mainichi INTERACTIVE こころ NEW!



魂の殺人: 狙われる子供の性/1 心の傷、親も聞けず プライバシー、防犯の壁

 人影のない昼下がりの団地に、風の音が響いた。

 「娘ですか、普通に学校に通ってます」。玄関先で父親が取材に答えた。平静に語りだしたが、やがて顔を曇らせ、目を伏せた。「どんな傷が心に残っているのか。本当のことは娘にしか分からない。たとえ親でも、尋ねるなんてできない」

 事件が起きたのは5年前の夏だった。午後1時過ぎ、仙台市内の団地で娘(当時7歳)は見知らぬ男に声をかけられ、階段の踊り場で暴行された。無職の男(30)が逮捕されたのは、その1週間後だ。この団地で何人も被害者が出ていたことを、家族の誰も知らなかった。

 女児ばかり狙った強制わいせつ事件は97年ごろから起きた。広い地域で散発していたが、宮城県警は同一犯とみて捜査していた。この団地でも被害が続き、捜査員が張り込んでいたところに男が現れた。リュックに入っていたビデオカメラには、自分で撮影した45人の子供たちへの暴行場面が映っていた。

 「猫が逃げちゃった。一緒に捜して」と男に声をかけられ付いて行った小学生は、警察で「お兄ちゃんがかわいそうだと思ったの」と話した。絵を描くと手が震える。夢に男が現れる……多くの子が後遺症を訴えた。

 ビデオの中の子供たちは言われるがままになっている。その顔はあどけない。泣き出して拒む子は「おうちに帰れないよ」と優しい口調で脅された。中には3歳児もいた。
ビデオを見た捜査員は、「憤りを通り越した感情を覚えた」と振り返る。

 男は4日に1度、バイクで市内を回った。小顔の美少女を見つけ、警察官が立ち寄る場所かどうか下見したうえで犯行に及んだ。自供したのは3年間で約100件。しかし、被害届は半数しか出ていない。容疑者の顔写真の確認を求めると、一部の親は「もう思い出させたくないので」と被害届を取り下げた。「絶対に許せない」と、一緒に写真を確かめた親子もいる。起訴されたのは11件だけだった。

 男は中国籍の父を持ち、いじめに遭った。高卒後は職を転々とし、母が病死してからは父と妹と3人暮らしだった。公判が始まると「何も覚えていない。幻覚が見える」などと口走ったが、仙台地裁は「非社会性人格障害と小児性愛」という精神鑑定を採用し、刑事責任能力を認めた。昨年5月に最高裁が上告を棄却し、性犯罪では異例の無期懲役刑が確定した。

 被害はなぜ拡大したのか。事件が起きた地域であからさまな聞き込みや広報をすれば、被害者が特定される恐れがある。性犯罪への社会の目が捜査の壁となり、犯行を増長させた。

 男が服役した昨年、仙台市内で新たな連続強制わいせつ事件が起きた。通りすがりの女児を尾行して共働き家庭を探し、親のいない家に上がりこんでいた。逮捕された会社員の男(28)は十数件の余罪を自供した。

 5年前、被害にあったあの女児が事件について語ることはない。夕方、父は帰宅した娘の顔を見ると安心する。今日も無事でいてくれた。

   ×   ×

 子供の性が危ない。街で、学校で、家庭で、大人の欲望にもてあそばれた小さな心は、癒やしがたいほどの深い傷を負う。「魂の殺人」の実像に迫る。【磯崎由美】=つづく

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 ◇HPに不審者情報、警察も防止策次々

 少子化が進むにもかかわらず、中学生以下の強姦(ごうかん)・強制わいせつ事件の届け出は、この10年間で7割も増加した。それでも潜在被害はまだ多い。

 家庭内の性虐待や学校内での教職員による被害は一層表面化しにくい。信頼してきた大人から受けた傷も深い。しかし、内山絢子・目白大教授(犯罪心理学)は「被害に遭っても早くケアすればトラウマにならずにすむ。もっと専門家を育てるべきだ」と指摘する。

 京都府警は昨年6月から、GIS(地理情報システム)を活用し、子供を狙った不審者情報をホームページに掲載。広島県警は県立大学と連携し、児童向けの性被害防止教材CDを作成した。その一方、「性犯罪は基本的に発表しない」という警察もある。

 被害が顕在化しやすくなったのか、事件自体が増えているのか、説は分かれる。加害者について内山教授は「家庭や社会などさまざまな要因が絡み合う。減らすための即効薬はない」と指摘する。



魂の殺人: 狙われる子供の性/2 人形の部屋 「女性には好かれぬ」

 女児(当時7歳)は午後2時すぎに校門を出た。昨年3月11日、群馬県高崎市。県営住宅のエレベーターに乗り、途中で同級生が降りて1人になった。10階でドアが開く。

 通路を歩き始めた時、後ろから伸びてきた太い腕にランドセルをつかまれた。17・5キロの体は宙に浮き、隣室の玄関に投げこまれた。「いやーっ」。叫び声に動揺した男は馬乗りになり、細い首を力いっぱい絞めた。

 外で女児を捜す母親らしき声がした。男は動かなくなった女児を押し入れに隠し、自転車で工場の夜勤に向かった。

  □■   □■

 「大人の女の人は絶対、自分なんか好きになってくれない」。4カ月後、婦女暴行殺人罪などで起訴された野木巨之(のりゆき)被告(27)は法廷で言った。事件後、血のついた帽子とランドセルを母親に見つかり、犯行が発覚した。裁判で事件について聞かれると涙を流し、アニメの話では冗舌になった。

 幼いころから漫画を描くのが好きで、「おたく」とからかわれた。描いた少女をフェルトで人形にした。上京し専門学校の漫画家養成コースに進んだが、「目指したものと違う」と帰郷し、鋳造工場に就職した。酒も賭け事もしない。女性との交際経験もない。工場では寡黙で、勤務成績はトップだった。

 仕事が終わると、数十体の人形がある部屋で、美少女を育てるアニメゲームに没頭した。等身大の美少女フィギュアにぬいぐるみを抱かせて部屋の隅に座らせ、寝る前の1、2時間、その日のことを報告する。

 美少女フィギュアやゲームに群がる若者は増加しているが、被告の場合、人形やゲームで発散してきた欲求がなぜ、女児に向かったのか。法廷で「自分を受け入れてくれるような感覚が、モノからは伝わってこない。ぬくもりが欲しくなった」と言った。

 検察官「もし人形を壊されたら」

 被告「ずっと自分を支えてくれた。身が裂けるよりつらい」

 検察官「遺族は子供にもっと思い入れがあることが分かってるのか」

 被告「はい……それは分かります」

 女児に性衝動を覚え始めたのは母に交際相手ができた時期と重なる。父は一人息子(野木被告)ができても家に寄り付かず、中3で離婚した。母を守ると決めた被告にとって、母の交際はショックだった。「愛情を独り占めしたい気持ちがあった」。成人女性を「まじめでないし、だらしない男に魅力を感じる。納得できない」と思った。

 会社員の母(48)は息子の性癖に気づきながら部屋に入らなかった。息子に頼まれ、警察に押収されないよう人形を隠した。「私が責めては本当に寂しい子になってしまう」。法廷で母の証言を聞いた被告は、いたずらをして母と謝りに行った子供のように泣きじゃくった。

 被告の母と女児の母(37)は野菜のおすそ分けをし合う仲だった。「あんなに近くにいたのに助けてやれなかった……」。娘を奪われた母は今も精神科に通い、外出もままならない。

 小1の夏休み、女児はベランダでアサガオを育て、「お花屋さんになりたい」とはしゃいだ。その種は知人たちの庭にまかれ、もうすぐ花を咲かせる。【磯崎由美、杉本修作】=つづく


魂の殺人: 狙われる子供の性/3 身内の罪 心重く、見えぬ被害 

「あいつと同じ血が体に流れている。できるなら全部入れ替えたい

 昨秋、大阪地裁。法廷外でモニターを通じて証言するビデオリンクシステムで、18歳の少女の声が法廷に響いた。被告席でうなだれているのは少女の父(49)だった。

 父親は7年前、アダルトビデオを見て幼い子に性的興味を持った。「他人の子では警察沙汰(さた)になる」と11歳だった娘を強姦(ごうかん)し、泣き叫ぶと殴った。被害は妹(16)にも及んだが、病気がちの母は気づかない。

 少女は昨年やっと恋人に打ち明けた。

 訴えた被害は1000回以上。父親は「何度もやめようと思ったが、やめられなかった」と言った。検察は懲役15年を求刑。裁判長は「軽すぎる」と18年を言い渡した。

 厚生労働省によると、03年度の児童相談所への虐待相談のうち性虐待は876件。「実態は10倍以上」という児童相談所職員もいる。しかし、警察庁の04年の統計で、児童に対する強姦や強制わいせつ罪で立件されたのは24件しかない。


    □■

 12歳の初夏だった。関東に住む少女は祖父(55)とスーパーに行った帰り、「休憩しよう」と空き家に連れて行かれた。服を脱がされ、押し倒された。2年近く行為は続いた。それが性交だと知ったのは中学2年になってからだった。

 女手一つで3人の子を育てる母は、祖父の会社で働く。訴えれば母が解雇されると少女は思った。でも気づいてほしかった。髪を染め、派手な化粧をした。母とけんかになり、「どうせ処女じゃないもん」と言い残して家を出た。娘を見つけた母は真実を聞き、警察に駆け込んだ。

 身内を法廷に連れ出すことにためらいもあり、「認めて謝ってくれればいい」とも思ったが、祖父は「愛情表現で少し触っただけ」と言い張った。捜査は進まなかった。「死ねばみんな信じてくれる」。電灯のひもを首に巻きつけたが、死にきれなかった。


 祖父は検察庁に書類送致され、再び少女への聴取が始まった。日時、場所、行為……すべて証拠がそろわなければ起訴できない。しかし、幼いころの封印しようとしてきた出来事ばかり。断片的にしか思い出せない。

 担当検事が次々と転任し、3人目の検事に「今日思い出せなければ立件は無理」と告げられたその日だった。夏休みの記憶が映像のようによみがえった。祖父母と行った旅先のホテル。祖母が寝静まり、隣の祖父の部屋に呼ばれた。「テレビはここにあり、ベッドはこういう向きで……」。検事は撮影していたホテルの写真をあわててめくった。少女の言う通りだった。

 警察は逮捕に踏み切り、祖父は3日目に自供した。起訴は時効(7年)のわずか2日前だった。01年10月、祖父に懲役4年の実刑が下った。

    □■

 裁判後、少女は一人の男性と出会った。すべてを打ち明けた。男性は何も言わず、結婚指輪をくれた。

 少女はいま23歳。2歳の娘を抱き、公園を散歩する。「うやむやにしていたら、今の自分はいなかった」。道ばたでたくましく青い花をつけた雑草に、いつも目が留まる。【磯崎由美、早川健人】=つづく


魂の殺人: 狙われる子供の性/4 教室の被害 転任先、把握できず

 小学3年生の理科の授業。教科書を開いていた女児の机の前で、先生がしゃがんだ。下から伸びた手がスカートの中に入ってきた。声が出ない。

 先生が急に怖くなった。一昨年の2学期。その後半年近く、授業中に触られた。気づいた級友に女児は「黙ってて。お母さんが悲しむから」と頼んだ。級友は自分の親に相談し、校長に伝わった。宮崎県警延岡署は常勤講師の男(55)を強制わいせつ容疑で逮捕した。

 昨年5月、初公判で男の「過去」が明らかになった。県教委が採用した87年以降、勤務した延べ8校で同じ行為を繰り返し、被害女児は20人に上っていた。しかも前任地の千葉市でも児童に触り、依願退職していた。


 同僚の女性教諭と交際したこともあったが長く続かず、30歳を過ぎて子供に性的な魅力を感じるようになった。取り調べで「悪いこととは分かっていたが、抑えられなかった」と供述した。

 なぜ男は教壇に立ち続けられたのか。

 千葉市から郷里の宮崎県に戻り、すぐに延岡市教委に履歴書を提出した。「親の介護のため、やむを得ず帰ってきた」という説明を聞き、市教委は「それ以上、せんさくしなかった」という。年齢制限で教員採用試験は受けられず、講師として採用された。同僚は「ホンチャン(教諭)だっただけあって、非常に腕がいい」と一目置いていた。

 担任でないと児童と2人きりになるのは難しい。授業中、「(触りやすい)最前列に座る我慢強そうな子」を狙った。教室内での犯罪は、16年前から重ねられてきた。

 市教委は法廷で初めて「余罪」を知り、男が以前勤務した学校の校長らに問い合わせた。だが、「どこも被害を把握していなかった」という。

 しかし、PTA幹部は「女子児童のほとんどは知っていたようだ。PTA内でもうわさはあったが、子供に直接確かめにくい。学校も、転勤してしまえばいいという事なかれ主義だったのではないか」と学校への不信感をぬぐえない。


 結局、立件されたのは1件。逮捕の翌月、新年度に合わせ、女児は転校した。

 今年1月、福岡高裁宮崎支部で懲役1年6月の実刑が確定した。県教委は今春から再採用の際、各校長が前任地に退職理由を照会するよう指導を始めた。

   □■

 02年11月、八王子市の小学校に勤める当時54歳の男性教諭が懲戒免職処分となった。児童をひざの上に座らせ、キスをしたり、下着の中に手を入れていた。

 保護者や同僚教諭に相談を受けた市教委は、男に問いただした。11年前から3校で、15人の女児にわいせつ行為をしていたことを認めた。

 なぜこの教諭が犯行を繰り返し、被害を拡大させてしまったのか。「懲戒処分後のことは一切関知しない」と東京都教育庁。逮捕されたかどうかも知らない、という。【早川健人、磯崎由美】=つづく


魂の殺人:狙われる子供の性/5 少年も標的 警戒心の薄さ突き

 一昨年4月から7月にかけて、東京都墨田区で小学生を狙った連続強制わいせつ事件が起きた。狙われたのは6歳から9歳までの男児ばかり。住んでいるマンションの自転車置き場などに連れ込まれては服を脱がされ、陰部を触られた。言う通りにしない子は殴られ、けがをさせられた。

 逮捕されたのは近くに住む31歳の男だった。上京して1人暮らし。時々アルバイトをしてハローワークに通ったが、定職にはつけなかった。同様の事件での逮捕歴もあった。動機について「女の子に声をかけるより、男の子のほうがあまり警戒心がないから」と供述した。

 4件が起訴され、1審は懲役6年。男は控訴したが、判決前の昨年4月、東京拘置所内で自殺した。

 性犯罪の被害者は女子だけではない。警察庁の統計によると、03年に強制わいせつの被害を届け出た未成年者の4%、259人が男子だった。

    □■

 昨年7月、静岡県浜松市。中学1年の男子生徒は友達と自転車に乗っていた。中年の男に呼び止められた。「補導員だ。花火など持っていないか、持ち物検査をする」。2人は言われるまま海岸沿いの防風林に連れ込まれた。ズボンを脱がされ、下半身を触られた。誰にも言えなかった。

 その2カ月後、海岸で砂遊びをしていた小学6年生の男児が車に連れ込まれ、同じ被害に遭った。居合わせた同級生が車のナンバーを覚えていた。男児の家に駆け込み、家族が警察に通報した。車は検問で見つかり、警察は運転していた同県湖西市の中学教諭、鈴木利幸容疑者(48)を逮捕した。

 家宅捜索で、少年同士がわいせつ行為をする内容のDVDなどが押収された。その中に、10人前後の少年の名前や電話番号を記したシステム手帳があった。被害届は出ていなかったが、警察は書かれていた名前の男児たちを探し出した。どの子も口は重い。ようやく被害届が出て、3件が起訴された。

 「どんなことをされたの?」と聞かれ、黙ってうつむくばかりの子もいた。口々に「怖かった」と訴えた。「一生忘れられないだろう」。被害者の聴取にあたった捜査員はつぶやいた。

 裁判所は「被告の顔を見たくない」という被害児童らの強い希望に沿い、法廷外からモニターを通じて証言するビデオリンクシステムを採用した。声変わりをしていない子供たちの声を、鈴木被告はぶぜんとした表情で聞き続けた。友達と防風林に連れ込まれた男子生徒はきっぱりと言った。「最低の人間だと思います。罰を受けてほしい」

 検察側は「少年らが言いなりになることや、しゅう恥心から口外しないことで慢心し、10年以上前からわいせつ行為を繰り返してきた」と指摘した。

 「脱がせて触ったことは認めるが、わいせつ行為をしようとは思わなかった」。鈴木被告は無罪を主張し、裁判はなお続く。【磯崎由美、稲生陽】=つづく


魂の殺人:狙われる子供の性/6 後遺症 「記憶は消せない」

 閉鎖病棟のナースセンターで誰かが壁をたたき、叫び声をあげた。この世の終わりのような泣き声に聞こえる。30代の女性患者は「同じ目に遭った人に違いない」と感じた。「私もあんなふうに、一生苦しむのか」

 群馬県・赤城山のすそ野に建つ赤城高原ホスピタル。女性が最初に入院した時から4年が過ぎた。

 営業マンだった父に可愛がられた。だが、父のまなざしは、いつしか性的な関係を求めるものに変わった。部屋に鍵をかけ、ひきこもったのは13歳のときだ。服を脱ぐのが怖く、入浴もできない。父の視線から逃れられるように、「目覚めたら、しわくちゃのおばあさんになっていればいいのに」と願う夜を過ごした。

 親元を離れ、大学に進んだ。ラッシュの電車で背広姿の男性と密着した。逃げるように次の駅で降りた。翌日から、始発電車に乗った。精神科の処方薬を一気に飲み、自殺未遂を繰り返した。

 解離性同一性障害(多重人格)と診断された。入院中も時々、幼い子供になっている。「記憶を消しゴムで消せるわけじゃない。消したつもりが、何かの拍子に思い出すんです」。そう話す女性は大きく目を見開いているが、視点が定まらない。自分を落ち着かせるように、タオル地でできた小さなネコのおなかを何度もなでた。

 アルコールや薬物などの嗜癖(しへき)を専門とする病院だが、解離性同一性障害の入院患者も少なくない。ほとんどが親から性的虐待を受けてきた。竹村道夫院長は「自分の最も大事な部分を他人の欲望のために利用される。それが一番信頼できる人からであれば、心の中まで破壊され、成人後も大変な障害が残る」と言う。

 患者は入院中も自傷や自殺未遂を繰り返す。治療が困難なため、他の病院はなかなか受け入れようとしない。「このままではもう限界です」とスタッフは漏らす。

 今年初め、20代の新しい患者が来た。やはり会社員だった父に中学生のころから虐待を受けた。4年ほど前から、頻繁に解離症状が起きるようになった。げた箱に買った覚えのないハイヒールが並ぶ。別の人格が包丁で自分を刺そうとすることもあった。

 女性はすぐにこの患者と仲良くなった。お互い、昔のことは話さなかったが、気持ちが通じた気がした。同じ経験をした仲間との出会いが心に変化をもたらしたのか、最近、女性は「もう一度、人を信じてみよう」と思えるようになった。

 窓から望む山々が闇に沈む。今夜もまた、友達が苦しみ始めた。きっと遠い昔のことが映画のようによみがえり、今どこにいるのかも分からなくなっている。

 女性は傍らから友達を励ました。「自分の手を握ってごらん。それはあなたのきれいな手。悪いことをしない手よ」【磯崎由美】=つづく


魂の殺人:狙われる子供の性/7 加害児童 更生へ支援、乏しく

 埼玉県上尾市の住宅地。昨年6月の夕暮れ時、小1女児(6)は駐車場で友達と遊んでいた。「ちょっと来て」と少年に声をかけられ、人目につかないガレージで体を触られた。近所で同じような事件が続いていた。

 間もなく警察に補導されたのは、近くに住む小学6年の男児(12)だった。家ではおとなしかったが、学校でも女子の体を触るなどの問題があり、学校が児童相談所に相談したばかりだった。

 「思春期前の子供たちによる性的加害が増えてきた」。加害児童を診察してきた国立成育医療センターの奥山眞紀子・こころの診療部長は危機感を強めている。「どうやって性に興味を持ったのか聞き、早い段階でセルフコントロールできるようにすることが必要。しかし、親がなかなか病院に連れてこない」という。

 神奈川県相模原市では00年2月、やはり小6の男児が強制わいせつで補導された。帰宅途中の女子中高生を「ナイフを持っている。声を出すと殺すぞ」と脅し、言う通りにさせていた。警察に「コンビニでいやらしい本を立ち読みしているうち触りたくなった」と供述した。

 二つの事件の男児はいずれも児童相談所に入所した。しかし児相職員は「わいせつ事件だからと、特に違う処遇をしているわけではない」と話す。

    ■□

 少年院には、こうした少年への特別な更生プログラムがある。個別面接で自分の行為を振り返らせ、性に関する男女の認識の違いや、性犯罪被害者の苦しみを教える。だが、法務省によると、実施しているのは男子を収容する全国44施設のうち、15施設だけ。03年に性犯罪で入院した少年は218人いるが、すべての少年が受けられるわけではない。

 昨年7月、佐賀・福岡両県で連続強制わいせつ事件を起こしていた無職、熊本晴彦容疑者(33)が逮捕された。14歳の時、8歳の女児にわいせつ行為をして山中を連れ回し、少年院へ。仮退院から2年後、今度は7歳の男児をわいせつ目的で誘拐、殺害した。少年刑務所を出たのは、今回の逮捕の約3年前だった。

 父の暴力におびえながら育った。小柄なためか、中学でも体格のいい同級生の女子生徒に下着を脱がされ、からかわれた。年下の子以外とは意思疎通ができない。少年院では同室の少年から性的暴行を受けていた。仮退院後に高校受験を目指したが、中学校が受け入れを拒否した。

 代理人の弁護士は「幼い子の性を狙うのは、職にも就けない弱い少年たちが多い。社会にさまざまな保護機能があれば、被告も事件を繰り返さず済んだはず」と悔やむ。

    ■□

 性犯罪者の多くは言う。「小さい子は抵抗しない。親も周囲を気にして訴えない」。被害から目を背ける社会の中で、魂の殺人は繰り返される。【磯崎由美、早川健人】=おわり

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